第二話 陽炎の残火

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「どうしてもダメですか?」 「んなもん、お前一人丸にしたら、全員採点し直すことになるでしょ。とにかく、解答は漢字で」 「えー、でも宿題はちゃんとやったじゃないですか」 頬を膨らませてジッと此方を窺う相川。 下唇を突きだし俯く仕草で、またつむじが見えた。 …………。 しゃあねぇなあ。 「んじゃ、おおマケで三角1点。それ以上はダメ。ちゃんと漢字で覚えなきゃ受験で困るだろ?」 俺は胸ポケットから赤ボールペンを取り出し、相川の答案を書き直す。 相川知、29点。 自分の控えにも点数を書き直し、更に教室に戻る。 いや、一人だけえこひいきじゃないですから。 『センセー、疚しい事があるからオマケしたんじゃないですか?』 等と言われそうだが、アレは暑さで頭がイカれただけで、現実に俺は何をしたわけでもないから。 勝手に見えた夢にまで文句言われちゃ、堪ったもんじゃない。 大体、俺は教え子にまで手を出すほど女に困ってないし。 まあ、取り敢えず平仮名解答したやつ集合。 サッサと答案の書き直ししねぇと、昼飯食いそこねる。
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