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何も言わずに泣くだけの相川に困った俺は、仕方なくそのプリントをスッと手に取り、身体の向きを変えた。
「帰るなら帰っても良いし、泣きたきゃ其処で泣いとけ。俺、此処で答合わせしといてやるから」
まあ、なんだ、人間無性に泣きたくなる時もあるわな。
人に言えない理由の一つや二つ、無い方がおかしいしな。
さて、問1は……足利尊氏。
ヨシヨシ、ちゃんと書けてんじゃんって、教科書見ながらだから当然だな。
「……センセイ」
後ろで聞こえる涙声。
「んー?」
俺は、プリントに視線を落としたまま相槌を打つ。
「……私……バカなの、かな……」
「あ?」
「入江……くん、私が……プリント、教科書見ながら……じゃないと……」
入江、お前は小学生か。
確かにヤツは要領よくテストはこなす。
だからこの居残りも、夏休みの宿題未提出に対するペナルティなんだが、イチイチ人に構うなよ。
からかって、泣かせて、逃亡。
ガキだよ全く。
「相川、入江に言っとけ、バカって言うやつがバカなんだよ」
一瞬だけ振り向き相川を見る。
つーか、んなことで泣くなよ、バカ。
と、出かかった言葉はうまく飲み込んだ。
あぶねぇな。
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