第二話 陽炎の残火

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何も言わずに泣くだけの相川に困った俺は、仕方なくそのプリントをスッと手に取り、身体の向きを変えた。 「帰るなら帰っても良いし、泣きたきゃ其処で泣いとけ。俺、此処で答合わせしといてやるから」 まあ、なんだ、人間無性に泣きたくなる時もあるわな。 人に言えない理由の一つや二つ、無い方がおかしいしな。 さて、問1は……足利尊氏。 ヨシヨシ、ちゃんと書けてんじゃんって、教科書見ながらだから当然だな。 「……センセイ」 後ろで聞こえる涙声。 「んー?」 俺は、プリントに視線を落としたまま相槌を打つ。 「……私……バカなの、かな……」 「あ?」 「入江……くん、私が……プリント、教科書見ながら……じゃないと……」 入江、お前は小学生か。 確かにヤツは要領よくテストはこなす。 だからこの居残りも、夏休みの宿題未提出に対するペナルティなんだが、イチイチ人に構うなよ。 からかって、泣かせて、逃亡。 ガキだよ全く。 「相川、入江に言っとけ、バカって言うやつがバカなんだよ」 一瞬だけ振り向き相川を見る。 つーか、んなことで泣くなよ、バカ。 と、出かかった言葉はうまく飲み込んだ。 あぶねぇな。
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