第一話 陽炎の悪戯

8/16
前へ
/32ページ
次へ
それにしても、暑い。 それなりに風は吹いてくるのか、風鈴の音は聞こえるが、あんなもんはまやかしだ。 たかが音で涼しくなんかなるわけねぇよ。 お茶を一口飲んで、チラリと腕時計を見る。 まだ五分も経ってねぇし。 俺は内心、日を改めるべきだったかと溜め息をつく。 そして、脇に座る相川を何となく見た。 こいつ、こんな部屋で暑く無いんだろうか……。 ぼんやりとアイスを食べる相川。 白い棒状のアイスを、紅い小さな舌先がペロペロと彷徨っている。 溶け掛かって流れ出すそれを器用に掬っては、時折全体をカプッと口に含むその様子。 膨れた頬と、出入りする白い塊。 動く度に、僅かに捲れ上がる唇の朱が妙に艶かしい。 …………。 って、何を考えてた俺は。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加