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その時、宗方先輩はポジションの交代を告げられた直後だったはずだ。
もし、たまたま修理の話を聞いた先輩が、俊輔を自転車の事故で故障させる方法を思いついたとしたら。
大きな事故でなくても構わない。
事前に気付かれればそれはそれで仕方ない。
ただ、─運が良ければ怪我をさせることくらいは出来るかもしれない。
そう考えたとしたら─。
「─酒井さん」
「ん?」
「……この自転車を、お願いします」
わたしは酒井さんの方に向き直り、
「拓己の大切な自転車なの。
こんなところに置いておけないから……」
「─分かった。あの車庫に戻しておけばいいね」
「ありがとうございます」
わたしは空色の自転車を託し、頭を下げてから拓己の後を追って駆け出した。
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