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国道に出ると、道を渡った向こう側に立つ拓己の姿が見えた。
往来が激しく、車の流れの切れ目を見つけられずにいると、拓己が車道に向かって手を上げるのが見えた。
吸い寄せられるようにタクシーが停車する。
「─拓己……っ」
わたしの声は車の音にあっけなく跳ね返された。
拓己を乗せたタクシーは勢いよく発進し、やがて車の流れに乗って見えなくなった。
─どうしよう。とにかく、わたしも向こう側に渡ってタクシーを─。
近くには歩行者信号も歩道橋も見当たらない。
渡ろうにも車がまったく途切れず、その場をウロウロと歩き回りながら泣きそうになっていると、
「─亜優っ」
聞き覚えのある声に、わたしは振り向いた。
目に入ったのは、住宅街の細い道をすごい勢いでこちらに向かって来るわたしの黄色い自転車。
─そして─。
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