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『もしお嫁さんの膝に傷があっても。
─俺なら、全然気にしねえよ。
大丈夫だから、泣くな』
『……』
『─ここから下りだぞ、しっかり掴まってろよっ』
ブレーキを軋ませながら、自転車は緩い坂を下り始めた。
スピードが上がっていく。
わたしは俊輔の背中に必死でしがみつきながら、血を流す自分の膝を見つめていた。
まだ小さかった俊輔の背中はとても大きく見えた。
Tシャツからは潮の香りがした。
「─こら、亜優っ」
あの時よりずっと広い俊輔の背中が、風を切りながら叫ぶ。
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