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『─だからあんだけ言っただろー?
忘れ物がないかどうか、ちゃんと部屋を出る前に見回せって。
─あー、もー、そんなことは後でいいや、とりあえずこれ持って車で今から出るから。
─父ちゃん、今から四十分くらいで間に合う?
そう、市民ホール。
……微妙?
16号線が空いてれば?
……だよなー。
いや、どっちにしろ急いで行くしかねえだろ、代わりのものじゃダメなんだから。
─演奏が始まるのが一時間半後で、だから、その前にいろいろ準備があるから
四十分くらいで届けないと意味が……ああ、そうだね。
とにかく出よう。
─もしもし亜優?
何とかして届けるから、三十分……いや、四十分後に裏の駐車場んとこで待ち合わせな?
搬入口の方だぞ、間違えんなよ?
今日はみんなで観てるからとにかく落ちついてがんばれよ!
じゃあな!─って父ちゃん、待った!
届けるもん忘れてどうすんだよ! これ─』
兄の声の余韻を残し、電話は切れた。
呆然としながらグリーンの受話器を置くと、カシャカシ
ャン、と数枚の十円玉が落ちる音がした。
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