第2話

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うまく言えないけれど、以前とは違う。何かが。 野上さんに何か声をかけられて、稲葉がひそやかに笑う。俺が見たことのない笑顔だ。 あんな風に笑うのか。 まるで花が開くみたいだ。 俺は刑事になれるかもしれない。 稲葉限定で。 ずっと抱えていた案件が片付いた日、とりあえず缶コーヒーで祝杯を上げていると、今から飲みに行こう、という話になった。 急に決めたので女の子が少ないと大谷たちがぼやいていると、休憩室の前を歩く稲葉を見つけて必死に誘いだす。 他の子たちのように軽く応じない稲葉にまたいらいらさせられる。 なんなんだ、こいつ。 野上さんには、あんな笑顔を見せるくせに。 思わず声をかけて、お高く止まっているともう誘ってやらないぞ、と言ってしまう。 稲葉はきっ!として、 「けっこうです!あなたに誘ってほしいなんて思ってません!」 と言い返した。 ヤローたちが歓声を上げ、大笑いしていたけど、俺はなんか衝撃で、複雑だった。 こんな風に感情に操られる自分を今まで見たことがなくて、戸惑っていた。 とりあえず、クールが売りだったのに。 何故だろう。稲葉に関しては、何ひとつ思い通りにいかない。 自分を見失うなんてかっこ悪いことは、したくなかった。 何も始まっていないのに、いきなりシャットダウンされたような気分だった。 いや、それは俺のせいか・・・・・。 ********** 数日後の飲み会。海外との連絡のせいで少し遅れて到着した。 最近、まず稲葉の姿を探している自分に気づいて苦笑いする。 相変わらず坂口たちと楽しそうだ。・・・・と上げた視線の先には・・・・やっぱり野上さんか。 一瞬、2人の視線は甘く絡む。あれは秘密を共有するものの目だ。 半ば絶望感を抱きながら、俺は野上さんに戦いを挑みたくなった。 破れかぶれだな・・・・俺。 お疲れさまです、と言いながら野上さんの隣に座る。 「お疲れ。商談、うまくいったみたいだな。部長、褒めてたよ」 「ええ、おかげ様で」 ビールのグラスを合わせ、一気に半分ほど飲む。 「イタリアだっけ?ローマ?」 「いえ、ミラノです」 「そうか・・・。すごいな片岡。ニューヨークから帰ってきたばかりなのに、もう海外勤務希望してるんだって?」 「日本じゃ野上さんたちがいるから、海外に逃げてるんですよ」 「片岡もお世辞を言うようになったか」 野上さんは、あははっと笑った。
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