第2話

7/14
前へ
/14ページ
次へ
忘れよう、とにかく。 考えないことにしよう。 しかし数日後の飲み会で坂口先輩に聞かれた。 「稲葉、お前片岡先輩をつめたーく振ったらしいな」 「いや、先輩違うんです。それはですね」 「欧州の女の子たち、怒ってたぞ。私たちの王子を振るなんて失礼よっ!って」 嶋先輩の情報収集力は女子並だ。 「噂に・・・なってるんですか?」 「なってるさ。片岡先輩が振られたことってないからなあ」 「ああー、俺も見たかったなあ」 盛り上がってる先輩たちにもう、言い訳するのは止めた。だって関係ない人だ。これ以上関わらなければいい。 ちらっと課長を見た。一瞬目が合って、噂、気にしないで。と気持ちをこめる。 伝わるかなあ。 会社でも、こんな場所でも、最近はあまり課長に近寄れない。 無防備になりそうな自分が怖いからだ。 無意識に警戒してしまうのは、許されない恋をしているという、罪の意識からだろうか・・・・。 ひと息にグラスを煽る。 と、嶋先輩が言った。 「見ろよ。我が部の双璧」 目をやると、課長と片岡先輩が、真面目な顔で話していた。 近寄りがたいらしく、さすがの女の子たちも遠巻きに見ているだけだ。 「正統派2枚目とクールビューティってとこだな」 何故か坂口先輩は嬉しそうだ。 「知ってるか?あの2人知り合いらしい」 嶋先輩の情報収集力は女子を超えるかも・・・・・。 「以前、国内営業部で一緒だったって。先輩後輩だけど、色々張り合ってたらしいぞ」 「じゃあ、ライバルだったわけか」 そんな話、知らなかった。 でも、私には関係のない話だ。 明日は休みなので2次会も付き合い、部屋に帰ったのは12時すぎだった。 シャワーを浴びて髪を乾かしていると、チャイムが鳴った。 「ごめん。こんな時間に。・・・・・連絡もしないで」 2次会は別だったので、何時間かぶりの課長だ。 「ううん、大丈夫」 いつでも、あなたなら大丈夫・・・・・。 彼はソファに座ると、ネクタイを少し弛めて、息を吐いた。 そんな姿も素敵・・・・と思いながら声をかける。 「コーヒーでいい?」 「うん」 キッチンに立ち、フィルターのセットをしていると、背中から声をかけられた。 「稲葉・・・・片岡となんかあった・・・・?」 課長まで、その話・・・・? 「なんで・・・・?」 振り返って、声が少し固くなった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

86人が本棚に入れています
本棚に追加