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忘れよう、とにかく。
考えないことにしよう。
しかし数日後の飲み会で坂口先輩に聞かれた。
「稲葉、お前片岡先輩をつめたーく振ったらしいな」
「いや、先輩違うんです。それはですね」
「欧州の女の子たち、怒ってたぞ。私たちの王子を振るなんて失礼よっ!って」
嶋先輩の情報収集力は女子並だ。
「噂に・・・なってるんですか?」
「なってるさ。片岡先輩が振られたことってないからなあ」
「ああー、俺も見たかったなあ」
盛り上がってる先輩たちにもう、言い訳するのは止めた。だって関係ない人だ。これ以上関わらなければいい。
ちらっと課長を見た。一瞬目が合って、噂、気にしないで。と気持ちをこめる。
伝わるかなあ。
会社でも、こんな場所でも、最近はあまり課長に近寄れない。
無防備になりそうな自分が怖いからだ。
無意識に警戒してしまうのは、許されない恋をしているという、罪の意識からだろうか・・・・。
ひと息にグラスを煽る。
と、嶋先輩が言った。
「見ろよ。我が部の双璧」
目をやると、課長と片岡先輩が、真面目な顔で話していた。
近寄りがたいらしく、さすがの女の子たちも遠巻きに見ているだけだ。
「正統派2枚目とクールビューティってとこだな」
何故か坂口先輩は嬉しそうだ。
「知ってるか?あの2人知り合いらしい」
嶋先輩の情報収集力は女子を超えるかも・・・・・。
「以前、国内営業部で一緒だったって。先輩後輩だけど、色々張り合ってたらしいぞ」
「じゃあ、ライバルだったわけか」
そんな話、知らなかった。
でも、私には関係のない話だ。
明日は休みなので2次会も付き合い、部屋に帰ったのは12時すぎだった。
シャワーを浴びて髪を乾かしていると、チャイムが鳴った。
「ごめん。こんな時間に。・・・・・連絡もしないで」
2次会は別だったので、何時間かぶりの課長だ。
「ううん、大丈夫」
いつでも、あなたなら大丈夫・・・・・。
彼はソファに座ると、ネクタイを少し弛めて、息を吐いた。
そんな姿も素敵・・・・と思いながら声をかける。
「コーヒーでいい?」
「うん」
キッチンに立ち、フィルターのセットをしていると、背中から声をかけられた。
「稲葉・・・・片岡となんかあった・・・・?」
課長まで、その話・・・・?
「なんで・・・・?」
振り返って、声が少し固くなった。
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