第2話

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「いや、稲葉が振ったって話は聞いてたけど」 「違うんです。いや違わないんだけど。あの人って本当に感じの悪い人で。私のこと嫌ってるから、いつも意地の悪いこと言われてるんです」 なぜか早口で、しかも弁解口調になる。 「嫌ってる・・・・?」 「そうなんです。だから私もつい腹が立って・・・・課長?!」 近づいてきた彼に、いきなり抱き締められた。 「もう言わなくていい」 「え?・・・・でも」 「他の男の話をするな」 話したのはあなたが聞いたからです。と思ったけど何も言わなかった。 抱き締められた腕にぎゅっと力が込められたから・・・・。 「課長・・・・?」 「課長って呼ぶな・・・・って言ったろ・・・・?」 「・・・・・・亮太」 「うん・・・・・・」 「どう・・・・したの・・・・?」 彼はやっと身体を離して、私の瞳を覗きこんだ。 「澪・・・・お前は俺のものだ」 燃えるような瞳で、甘くて低い声でそんなことを囁かれて、抗える女がいたら教えてほしい。 「うん・・・・」 彼の指が首筋をとらえ、そのままぶつかるように唇が重なる。 それは何度も何度も繰り返されて、もう立っていられなくなった。 「澪・・・・・愛してる」 切ない彼の囁きは、抱き上げられた腕の中で聞いた。 ********** <航目線> 最初から、なんとなく気に入らない女だった。 赴任してきてすぐ目に留まったのは、白いブラウスに清潔感を感じたせいか。 いやしかし、白いブラウスは大勢いる・・・・・。 強いて言えば、笑顔を向けられることも、話しかけられることも全くなかったからか。 まとわりついてくる女は鬱陶しかったが、俺の視線に全く反応しない女も珍しかった。 無視かよ・・・・・。 後輩の大谷に探りを入れてみると、隣のアジア課の稲葉というやつらしい。 仕事ぶりは真面目で、色気ないけど、けっこうさっぱりした奴です。酒はかなり強いですよ、という話だった。 「え?片岡さん気になります?珍しいですねー?誘いましょうか?」 「いや、いい」 特に興味をひく内容でもなかった。 なのに、何故か目で追っている自分に気づく。 確かにくるくるとよく動く。うちの課の男どもにも「澪ちゃん」などと呼ばれ、笑顔を見せている。 何故か、気に入らない。 稲葉を見ると、なんだかいらいらするようになった。 あいつ・・・何を見てる・・・んだ?
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