第2話

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時々さりげなく稲葉が視線を走らせる。その先を何度も探して、やっと行き着いた。 野上・・・・さん? 野上・・・・課長とは以前の部署で一緒だった。かなり生意気だった俺は色々つっかかったが、営業成績も、語学も、取引先との対応も、何ひとつかなわなかった。 へえ・・・・そういうことか。と思ったけど、どうやら稲葉の片思いらしい。 たしか野上さんは結婚してるし、子供もいると聞いていた。 しかも俺と違って真面目。浮いた話は聞いたことがなかった。 しかししばらくすると、2人の雰囲気は何となくぎこちなくなった。 何かあったか・・・それとも何もなくなったのか・・・・。 俺、何を観察してるんだ。 別に興味はない。あの2人がどうなろうと。 6月に入るとシンガポールで取引先の倒産騒ぎが起き、アジア課は毎日バタバタしはじめた。 まあ、無理もない。めったにないことで、野上さんも現地との連絡で忙しそうだった。 稲葉も残業が多くなり、夜もたまに見かけるようになった。 ある夜、缶コーヒーでも飲もうと休憩室に入ると、壁にもたれて稲葉が眠っていた。 息が止まるほど驚いて、足が進まなくなった。 白い頬がかすかに色づき、その無防備な姿に不覚にも息を飲んだ。 そんな自分の気持ちに腹が立つ。 こいつ・・・・バカじゃないか。 こんな所で寝顔を・・・・他の男にさらして。 俺以外の誰かが見たら・・・・と思うとますます腹が立つ。 わざと自販機で音を立て、目を覚まさせた。 あ、という顔で見上げた稲葉に、 「こんな所で寝るか?普通」 といい放つ。 さらに頬に赤みがさし、明らかにむっとした顔が、なかなか魅力的だ。 さらに、 「百年の恋も醒める」 と言って背中を向けた。 怒ってるだろうけど、これで俺のことは忘れないだろう。たぶん。 無視されるよりましだ。 でもそれからたまに向けられる稲葉の視線は、けっこうキツかった。 修正路線は見つからなかった。 そもそも女に気にかけてもらう方法なんて知らないし。 女はいつも寄ってくるもので、選べば良かっただけだった。 俺が訳のわからないジレンマに悩んでいると、6月も終わりに近づいた頃、2人の雰囲気はまた、変わった。
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