訪問者

5/12
45人が本棚に入れています
本棚に追加
/81ページ
 男は仏壇に線香をあげ、静かに目を閉じた。  仏壇には、まだ納骨を済ませていない母の遺骨が乗せられいる。  遺影は父の古びた写真の横に真新しい母のもの。  40代の父と50代の母は、どちらも笑ってはいない。 「ありがとうございます」  私は合掌をといた男に向かって、そう言って頭を下げた。 「母とはどういった……」  母との2人暮らし。  最近は滅多に一緒に囲む事も無かった小さなダイニングテーブルの上にお茶を置く。  すると男は「どうも」と言って軽く頭を下げ、 「いいえ。僕はどちらかと言うとお父様の知り合いです。勿論昔、おばさんにも会った事があります。君にも……」 と答えた。  意外な答えに、私は言葉を失った。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!