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「何をやってるの?早く原稿を出しなさい」
里桜は胸の前でノートをぎゅっと握り締め、涙目で首をブンブン横に振る。
「嫌よ!原稿と一緒に私を食べる気でしょ!?
そうはさせないんだからっっ!!」
「そんな下品なことしませんわ。
・・・第一、貴女、美味しくなさそう」
「はあっ!?」
里桜がいきりたつと、その隙に女性がノートを里桜から奪い取り、読み始める。
そしてその後、予想だにしない行動を彼女はした。
彼女は私の数時間の恐怖とアイデアの結晶をベティの口の中に放り込んだのだ。
ベティは噛む素振りも見せず、一飲みでノートを平らげる。
女性は満足げに、ベティの鼻先を撫でる。
「任務完了ね。じゃあ、また三日後に来るから」
女性の言葉に里桜は頭に来て、机の下から飛び出した。
「ふざけないでよ!
いきなり名前も名乗らずに窓を破って来るなんて!
大体貴女に常識とかルールとかない訳!?
貴女みたいな人、警察に捕まえてもらうんだから!」
女性は里桜の胸ぐらを掴むと高く持ち上げる。
里桜が顔を真っ赤にして足をばたつかせると、女性は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「私はマドレーヌ・マホメット・ジーザス・ラミア・マグダラ・ジャンヌ・ルカ・アモン・ラーフラ・ロキ・ミュンヒハウゼン。
私に常識やルールは通用しない。
私が最高法規であり、司法・行政・立法の上に君臨しているのだから。
だから警察に言うだけ無駄よ。
既に私の息がかかっているわ。
・・・命が惜しくば、三日後に最高傑作を用意しておくことね」
マドレーヌはポニーテールにした黒髪を弾ませ、ベティに跨がると、破った窓から飛び出す。
ベティの尾っぽから出た青い炎と白い煙と轟音が辺りに響き渡る。
炎と煙が遠ざかり、やがてベティとマドレーヌの姿が見えなくなると、
里桜はその場にへたりこみ、口角をピクピクさせ、力なく笑う。
「・・・何なのよ、あれ」
烏はカアカアと鳴きながら、夕空の向こうへ飛んでいった。
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