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ふもとの村に住む、この別荘の管理人の息子さん。
………土砂崩れに巻き込まれて、犠牲になったとばかり思っていた。
「洋平さんこそ……よく無事で…」
思わず涙がこみ上げた。
やっぱり聞きだいことがありすぎて、言葉が出てこない。
「一体どうなっているんですか?もしかして……、私達もう……」
本当はもう、死んでしまっているのかもしれない。暖炉の暖かさも乾いた衣服の心地よさもこんなにリアルなのに。
だって、「助かった」と断言できる客観的根拠がないんだもの。
それにこの世にもう存在しないはずのこの空間……無傷のままの、ツグミの別荘のリビング。
私は自分の手のひらを見つめたり、頬をつねったりした。
「ああ…心配ないよ。ここはあの世、なんてことはないから。
ホラ、ちゃんと生きてる。僕もウララも、そして君も」
洋平さんは苦笑すると私の方に右手を差し出した。
「生還おめでとう、楠木奈津さん」
「…………」
つられて私は曖昧に右手を出し、洋平さんと握手する格好になる。
洋平さんの体温に、
(あ、生きてる…)
ぼんやりそんなことを思い、やっと現実感が沸く。
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