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私は、はっとした。
土砂崩れ、ダムの決壊。
どちらも自分達の目で見たわけではない……もっともあの時は、停電の暗闇の中で避難するのが精一杯で。
地下室に閉じ込められた私達が得られた情報は、リビングで聞いたラジオのニュース、唯一電源が繋がっていた無線機からの伝聞……。
それさえも計算され、大掛かりに、しかも巧妙に仕組まれたものだったとしたら?
「全部、あなたの仕業なのね?電気もつかず、電話も繋がらずドアが開かなくて密室に8人という極限下……。
どんな荒唐無稽なニュースでも信じてしまうし、恐怖で支配するのも簡単」
「ご明察」
能面のような「洋平さん」が口の端を少し持ち上げた。
「……でも、今のニュースは本物よ。今日は水曜日。もうすぐ朝だわ」
ウララがラジオのスィッチを消し、「洋平さん」のそばに歩み寄った。
「ナツ、思い出して。私達は、何を頼りに日時を計っていた?」
スマホの時計。救済者から渡された……それに、リビングから聞こえてきた、12時だけを知らせる、歪な振り子時計の音。
「まさか……一週間と思わされていたのも…たった…3日?」
「それ位が妥当だろうと思ってね。飽食の時代にエアコンとIT機器で育った子達だもの、一週間も飢えと寒さと退屈に晒したら、誰も生き残れない」
「洋平さん」…いや、『救済者』を名乗る殺人者は、眉一つ動かさずにすらすらと説明し始めた。
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