始まりの物語

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「彼」は階段を上りきると、二階の通路の手すりに手をかけ、見えない聴衆に凱旋演説でもするかのように尊大な態度であたりを見回した。 「この屋敷はね、旧華族でこの一帯の地主だったある一族の持ち物だったんだ……。 戦後GHQに押収され、政治犯用の極秘収容所となった。あの地下室は、その時に作られた水牢だよ その後一族は離散し、当時の村もほどなくダムに沈んだ」 ……初めて聞く話だが……… (それが、ツグミや私達と一体何の関係が…?) 私は一階のホールで螺旋階段の手すりに 掴まったまま、どうにか立って「彼」を睨みつけていた。 外では雷鳴が鳴り止まず、激しい雨が降り出した………ちょうど、あの晩のように… 「この地域一帯の明治近代史以前から実質上統治していた一族………辛うじて今、村の古老のみが知る民謡や伝承にその片鱗を残す程度だが………ほぼ無一文で四散した」
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