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「しかし、当時の当主は代々側近を務めた人物に没収を免れた隠し財産を密かに託した……それが別荘の管理人兼執事の小林家の曾祖父にあたる人物だ。
東京で事業を始めたものの、慣れない商売と暮らしの苦労で間もなく当主は亡くなった……死に際に、隠し財産の存在を二人の息子に明かして。そのうちの一人が……芹澤つぐみの家系、芹澤家のルーツにあたる人物だ」
私ははっとした。この事件の裏には予想していたよりもっと深い因縁が潜んでいそうな気がした。
「もう一人は……僕の曾祖父にあたる人物なんだが、当時はまだ若かった。帝大の学生で世間知らずだったのが災いした。
つまり一族の長兄の方はGHQの影響力が及ばなくなった頃、戦後の混乱と復興の時代にうまく乗る形で事業を広げた。
隠し財産を元手に政財界に打って出た。自分の財を成した村を麓に移転させ、ダムを作り、子孫は国際的にも屈指の一大企業、芹澤グループとして日本社会に君臨している。
そして弟の方は、僅かな学費や生活費の面倒を見てもらうことと引き換えに、実質上財産を放棄させられた。
そして、当時結婚を考えていた女性との家柄の違いを理由に絶縁されたんだが、それも言いがかりみたいなもんさ。
若く、学問で身を立てようとしていた彼には財産の全容や兄の腹黒さを知るすべはなかったんだろう」
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