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螺旋階段のはるか上。
微動だにしない「彼」が仮面のような微笑を貼り付けたまま、差し伸べた手が時折雷光の中で異様に白く光る。
ほとんど残っていない体力のせいか気が遠くなるほど長い時間をかけて辿り着いた気がした……ターゲットから一メートル弱。
…階段を登る間、私はさらに考えていた…
土砂崩れの情報がフェイク、ということは道路が塞がれて別荘が孤立している……という状況も私達が思い込まされた嘘かもしれない。
いや、きっとそうだ。どういう手段にせよ「彼」が全ての犯罪の証拠を消し去って世間に再び紛れ込むためには…
絶対逃げ道が必要だもの。
しかし、たとえ麓の村までの道が無事だったとして、私が助けを求めに走り殺人犯を断罪する時間や体力は残っていなそうだ。しかもいつ消されるかもわからない。
(ここで、終わらせるしかない)
(ツグミ、チアキ、アリサ、ルイ、ウララ、それに…アイミ…)
私は皆の名前を一人一人心の中で呼びながら手すりに捕まりようやく立ち上がった。
ポケットからコルク抜きを取り出そうとしたその時。
目の前の男の手が機械的に私の胸を押し、私はそのまま螺旋階段を転げ落ちた。
「きゃああああああ!!!」
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