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『ね……今日、引っ越しの日よね?そろそろ帰った方がいいんじゃない?』
『うん……まぁ、急がなくても大丈夫。荷物届くの夜だからね』
美崎さんの艶やかな髪を愛しげに撫でる結城君。
『…私も手伝いに行こうか?』
『いや、今日のところはいいよ……落ち着いたら遊びにおいで?』
口角を上げ、優美な微笑を讃える結城君。
知らなかった、恋人にはこんな顔を見せるんだ……
手慣れた風に着替え始める二人は、まるで私には“別世界の住人”だった。
美崎さんのネックレスに引っ掛からないよう、丁寧に長い髪を掬い上げる結城君の手つきとか……
結城君のジッパーを優しく上げる美崎さんの白い指先とか、見ててドキリとする。
『ひなたってさ、結構淡白だよね?……もっと頼って欲しいのに』
『そ?……亜紀には充分頼ってると思ってるけどな』
不満顔の美崎さんの額にちゅと口付けを落としてから、結城君は制服のブレザーを颯爽と羽織って立ち上がる。
すると。
さっきまでの気だるげな風情とは一転して、ストイックなものとなった。
セックスとは無縁な……禁欲的な気が彼を包み込む。
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