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───運命の翼に乗り、汚れなき空へ
───遥かなる明日へと、我は飛ぶ
幼い少女が澄んだ美しい声で歌いあげる。
其処に、少女の姉がピアノの弾き、年の離れた兄がギターを弾いていた。
「あっ!」
途中でピアノを弾いていた少女が声をあげ、指を止めてしまった。
それを受けて、妹は不思議そうに首を傾げ、兄は彼女の隣に着いた。
「アリス、どうしたんだ?」
「…ま、間違えちゃったの…。」
アリスは今にも泣き出しそうに、小刻みに震えていた。
「間違えても大丈夫ですわ!」
「イオンの言う通りだよ。別に何処かで発表したりしてるワケじゃないんだし。」
「でも…でも…。せっかく楽しくしてたのに、アリスの所為で…アリスの所為で……!」
アリスの目からボタボタと大粒の涙が零れ落ちる。
イオンはどうして励まそうかとあたふたし、トリルも少し困った顔をしていた。
しかし、その顔もほぼ一瞬で消え、笑顔を浮かべて、アリスの頭を優しく撫でた。
「間違えたからって、其処でやめちゃわないで、続けてみたら良いんじゃないかな?」
「……どうやって?間違えちゃったら、続けられないよ……」
「大丈夫だよ。えっと、さっきアリスは、こう弾かないといけないトコロを、こう弾いちゃっただろ?」
トリルは言いながら、ピアノを男らしい長い指で弾き、妹の間違いも容易く再現してみせた。
アリスは無言で頷きながら、トリルの指の動きを見ていた。
「此処から、次に繋げるには…。アレンジしちゃえば良いんだよ。こう言う風に。」
「わ!」
トリルのその助言とアレンジに、アリスは驚いた様子だった。
「凄い!お兄ちゃん、もう一回さっきのやって!アリスに教えて!」
「うん。良いよ。」
「私にも見せて下さいー!」
仲の良い三人の兄妹。
共通して音楽が好きな彼等は、いつも一緒だった。
「俺、この家を出ます。」
トリルが、この言葉を、両親に告げるまでは。
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