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「突然何を言い出すんだ、トリル!」
「…ホントに急でゴメン、父さん…。でも、…もう、決めたから。俺の大好きな…愛してやまない音楽で、仕事がしたいんだ!」
「でも、だからって家を出なくても……。」
母親が淋しそうに、俯きながら呟く様に言った。
トリルはそれを見るや、眉間に深い皺を作った。
「…申し訳ありません、ウルラさん…。」
母親の言う通り、トリルが家を出る必要等、全く無かった。
彼自身も、それは充分理解している。
「…だが、トリルももう十八歳だ。そろそろ独り立ちをした方が良いだろう。」
父親のその言葉が、トリルが家を出ようと思った理由の一つだった。
そして、
「イオンとアリスには、言ってあるの?」
「…いえ。まだ、何も…。」
この…
「どうして?」
「話せば、『嫌だ』って泣き付かれてしまうでしょう…?…そうなると、俺も、出て行き辛くなりますから…。」
自分の母親への態度が、何よりも許せないのが、一番の理由だった。
トリルと母親の間に、血の繋がりは無い。
父親は再婚で、トリルは前妻との間に出来た子。
なので妹二人とは異母兄弟なのである。
トリルは母親とは十歳しか年が変わらない。
故に、トリルはどうしても、彼女を母と呼べず、名前に敬称を付けて呼び、話し方もかなり他人行儀。
それは、彼女には失礼だとわかっていた。しかし、直す事も出来なかった。
「…だから、…明日、アリス達が起きる前に、出ます。」
「お兄ちゃんが…お家を…?…どうして?ねぇ、どうしてお兄ちゃんが出て行かなくちゃいけないの?ねぇ!どうして、引き止めてくれなかったの!お兄ちゃんを…お兄ちゃんを連れ戻して来てよおぉぉーっ!!!!」
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