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城での生活も、半年が過ぎようとしていたある日のこと。
満月が美しい夜でした。
娘がなかなか寝付けずにいると、娘の口からぽつりと溜息が零れました。
原因は、解っていました。
あれ程、胸躍った城での毎日が、ここ最近、それ程楽しいと思わなくなっていたのです。
(どんな楽しみも、こんなものなのかしら?)
娘は冷めてしまった自分の心を、深く覗き見ました。
(いいえ、そうじゃないわ。
きっと、……独りだからだわ)
父親と暮らしていた頃、一人になれたらどんなに幸せかと思っていた娘の、
初めて知る感覚でした。
(どんなに大きな幸せも、一人ぼっちではどこか切ない……。
分かち合ってくれる人がいなければ)
自然と、男爵の顔が浮かびました。
娘は自分が成長するとともに、男爵がどれほど素晴らしい男性であるのか、
はっきりと感じることができました。
城が見事なのは勿論、城で働く召使たちは娘を成金の娘と蔑む事無く、
主人の妻として、優しく親切に、礼節を持って接してくれました。
定期的に食料を運んでくる村人も皆、明るく働き者で、
娘に楽しい話をしてくれました。
城の者も村の者も、娘が今までに会った事がない程良い人ばかりで、その誰もが男爵に感謝し、称賛し、尊敬しているのです。
娘は男爵の事を聞き知る度に、感謝の気持ちとは違う、
熱い感情が湧き上がるのを感じました。
けれど、娘が接する男爵はひたすら無口で愛想がなく、
人形の様に手応えがありませんでした。
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