新たな花嫁

2/3
前へ
/38ページ
次へ
豪華な一室。 独り佇む娘の顔は、沈んでいました。 整った顔は化粧でさらに美しく、すらりとした身体には見事な刺繍と、 眩い宝石が施された、純白のウエディングドレスを纏っています。 あと数分後には、神の前で結婚の誓いを立てる娘の胸中は、幸福とはほど遠く、 鉛を飲み込んだ様に深い悲しみの中にありました。 (結婚なんて……!) 娘の父親は、お金儲けしか興味のない成金でした。 父にとってお金だけが正義であり、その為には親兄弟、妻子供に至るまで利用する人間でした。 その為、親類は父を嫌い、兄二人も娘が小さい頃に家を出てゆきました。 兄達が出ていってまもなく、母は亡くなり、 独り残された娘は、成金の父に従って生きるしかありませんでした。 ひたすら父に従い、それでも美しく成長した娘は、 父の取り決めた今日の結婚式を迎えたのです。 顔も知らない結婚相手は、地方の資産家の男爵でしたが、 妻を迎える度に妻が行方不明になる、曰くつきの男爵でした。 しかし、例え評判が悪い男爵であろうと、男爵に変わりはありません。 お金の次に名誉が欲しかった父親は、自ら売り込んで娘を男爵の妻にと差し出したのでした。 元より自由にはならない身と覚悟をしていた娘でしたが、 やはり本心では、結婚をしたくありませんでした。 父を見て育った娘は、男という存在を嫌悪していたのです。 男は皆、傍若無人に振舞う野人であり、結婚し、父親から離れたとしても、 支配される事に変わりはないと思っていました。 娘にとって結婚は束縛であり、愛は幻想でした。 (幸せになる事は、儚い望みなのだわ……) 娘が絶望の溜息をついた時、 残酷なほど確実な鐘の音が、結婚の始まりを告げました。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加