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悲しみの顔をヴェールに隠し、形ばかりの腕組みで父に引きずられる様に、
娘はヴァージンロードを歩いてゆきました。
男爵の傍らに立たされ、生贄に差し出される気分で、娘は初めて男爵の顔を見ました。
(まあ!なんて美しい方なの)
隣に佇む男爵は、見た事もない程美しい男性でした。
白い燕尾服に包まれた身体は、白樺の様にすらりと伸び、
肌は陶器のように肌理細やかで、切れ長の眼、すっと通った鼻筋、薄い唇が完璧に並んだ顔立ちは、ギリシャ神話の神の様でした。
奇跡の様な美しい男爵に、娘の頬は上気し、胸は期待に高鳴りました。
娘と男爵の視線が重なり、娘は気が遠くなりそうな想いで微笑みましたが、
次の瞬間、その顔は凍りつきました。
娘を見る男爵の眼は、軽蔑とも嫌悪ともつかない冷厳な眼差しでした。
娘は羞恥と悲しみで身体が強張るのを感じ、
愛情の欠片もない男爵の誓いの言葉の追いうちに、温かな気持ちで高揚した娘の頬と心は、一気に青ざめてゆきました。
(やはり私は、世界一不運な花嫁だわ……)
美しくも冷酷な男爵との生活を思い、娘は悲嘆にくれました。
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