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しかし、娘自身が変化する一方で、
娘と男爵との距離は結婚式を挙げた日から、少しも変わっていませんでした。
男爵は城に居る間はほとんど執務室にこもり、たまに街へ出掛ける時も、
娘を伴うことはなく、寝室も別々でした。
唯一、顔を合わせる食事の時間ですら、男爵は言葉を交わそうとしません。
男爵の与えてくれた環境に、大いに感謝をするようになった娘は、男爵との距離を縮めようと、何度も話しかけようとしました。
そしてその度に、結婚式での辛い記憶を思い出してしまい、
娘の身体は強張り、どんな短い言葉も掛ける事が出来ず、逃げてしまうのでした。
それは、『鍵のかかった部屋』でも同じでした。
城には男爵の言う通り『鍵の掛った部屋』が、一つだけありました。
濃厚な葡萄酒の色をした、決して煌びやかではないけれど、繊細な彫刻が施された扉は、男爵そのものを現わしている様でした。
美しく、恐ろしく、娘は扉の前を通る度に、逃げる様に、足早に通り過ぎるのでした。
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