私の願い

3/10
前へ
/10ページ
次へ
「あっ、これは失敬。私は赤井太一といいます。街で調査・アンケートを行っている者です。失礼ですが溜め息をついているのが見えたもので」  ようやく困惑の理由に気づいた男は自己紹介を始めた。低くない声とその調子をみると、見た目通りと言うのもなんだがお調子者の気がありそうだ。  何かお悩みがありましたら、宜しければ質問にお答え願いたいのですが。と太一と名乗った彼は続けた。 「は、はい。わかりました」 「ありがとうございます!では早速ーー」  名前・年齢・職種から始まり、よく見る番組や趣味など他愛のない質問が続く。他にも好きなお菓子やコンビニなど他愛ないものばかりだが以外と想像より質問があり、20近くはあっただろう。しかし彼の明るい調子やトーン、話し方の面白さのお陰もあり鬱陶しくは感じない。  では最後に。という言葉を置いてから彼は口を開く。 「この質問があるので今回逢川さんに声を掛けたのですが……クリスマスまでは二週間程。街もすっかりクリスマスムードですが、そのなかで逢川さんを悩ませているのは何でしょうか」 「それは……」  普段あまり他人に弱味を見せようとはしない彼女だが、何故か今回は仕事・恋愛のことをありのまま話した。アンケートだからなのか、赤井太一の人柄が話しやすいのか。何であれ、また彼女にしてはらしくもなく答えた。 「……なるほど、確かに仕事と恋愛の両立は難しいですね。女性ならなおさら。では、もしそんな逢川さんがクリスマスにお願いするとしたら何でしょうか!」 「お願いですか……、クリスマスなんて滅茶滅茶になっちゃえ!とかですかね?なんか、嫉妬丸出しで恥ずかしいですけど」  ふふっ、とトオルは笑いながらあることを思った。そういえば、こんな風に自然に笑って素を出すなんていつぶりだろ。しかも、男の人に。  不思議と女性らしさを取り戻すことだ出来た気がした。彼からすればただのアンケート調査ではあるが、声を掛けたてもらえて良かったと彼女は思った。 「いやぁ、素直でいいと思いますよ!……時間をとらせてしまい申し訳ありません。ご協力感謝します!また何処かで」 「あっ、はい。こちらこそ!」  赤井につられてトオルも笑顔で返す。また何処かで。彼女はいい響きだと思った。たった二十分弱の出来事ではあったが、何か変われた気がした。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加