第1話 現れた開祖様

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「なあ信二、『真言立川流』って知ってるか?」 昼休み、一緒に弁当を食べていた友人が突然聞いてきた。 「何それ?」 俺はいったん箸を止めて聞き返す。俺の名は池沢 信二。高校一年で、特に勉強も成績も並みの、ごく普通の生徒だ。 「俺が昨日コンビニの歴史の本を見て偶然見つけたものでな・・」 「涼、お前が歴史っていうと違和感が。」 「うるせえ、黙って聞け。」 話しているのは中岡 涼。俺の友人で、成績は下の下。性格は悪くないので俺としては普通に付き合いをしているが、色眼鏡で見る連中も少なくないそうだ。 「で、立川流が何だって?真言っつーなら仏教の何かか?」 「そうなんだよ!で、どんなのかってーと・・・」 おい、詰め寄るな。顔が近い。俺の気持ちなど意に介さず、涼は得意げに話しだした。 「今は信徒ゼロの失われた密教なんだが・・何と・・・・ その密教、エッチがOKだったんだとよ!」 たっぷりと間を挟み、大げさにそう言い放った涼だが、俺はうすら寒い目で見つめていた。 「・・で、それで?」 しばらくして俺が聞き返すと、涼はあっけらかんとこう答えた。 「いや、それしか覚えてない。」 「あっそ・・・」 やれやれだ。歴史だの仏教だの、こいつから聞きなれない単語が出てきたと思ったら、そんなオチかよ・・・ 言い忘れたが、こいつが一部の連中からさけられてるのはこういう下世話でいい加減な面も一役買っている。早い話がバカだ。バカ。 「いやでも興味わかない?湧いてきませんか?異色の密教ですよ?」 「知るか。お前、そういうカルトとかに近づくんじゃねえぞ。俺は助けないからな。」 「なにい!?おい、弁当かき込む前に、こっち向けよ!無視すんな!」 心の中で溜息をつく。変な宗教ってのはいつの世も尽きないもんだ。 真言立川流。その時は、その存在を気にも留めていなかった。
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