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「・・・何故、そんなことを?」
「さあな。世を儚みでもしたか・・よく覚えておらん。」
後悔の念があるのか、蓮念はかすかに唇をかんだ。
「我は弟子と共に歩むことをしなかった・・そのことをずっと気にかけていて・・だから、我と弟子の教えの名残でも見つけねば、帰るに帰れんのだ・・」
「・・・・」
「・・む?なんだか、弟子のためというより、ただの我のわがままだな・・ふふふ・・」
連念は薄く、自虐的に笑った。俺はしばらく、黙っていた。
自身で「わがまま」と認めている以上、この世にとどまる義理も、ましてや俺が関わる理由もない。理屈ではそのはずだ。
しかし・・・
「連念さん。」
声をかけると、蓮念はきょとんとした目でこちらを見た。語気が自然に強くなったのだろうか。
「もし、もしこの世にとどまるとしたら・・行くとこはあるんですか?」
蓮念は目をぱちくりとさせた。質問の意図をつかみかねているようだ。
「いや、ないが・・・」
やっぱりか。俺は頷き、こういった。
「もし良かったら、ここに泊まりませんか?」
「え?」
蓮念が間の抜けた声を出す。俺は構わず続けた。
「その代り・・さっきも言ったけど、多少興味がわいて・・少しずつでもいいんで、教えてもらえませんか?教えを改めて伝授したら、帰るってのはどうですかね?」
興味がわいた。その言葉が、どこまで本当だったかは分からない。だが、それは水が流れるようにするすると口から出ていた。
「・・よいのか?」
「・・はい。」
すると、連念は打って変ったように笑顔になった。
「そうかそうか!ありがたい!まことにありがたいぞ少年!!」
「は、はあ・・・」
「もうさん付けなぞ要らん。呼び捨てでいい。分かったな?」
「・・分かりましたよ、蓮念。」
まったく、調子のいい奴だ・・・
「そうじゃ。まだ名前を聞いておらんかった。お主の名は?」
「池沢 信二。」
「信二か。世話になる。」
静かに合掌する蓮念。こちらも合掌で返す。挨拶なんだろうが、やりにくいな・・
「・・あ。」
そうだ。さっきから気になっていたことがあった。
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