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違和感を感じたのは、クトゥヴァの方だった
そして違和感の正体を、その高性能な頭脳部で導きだした時、身体を揺さぶる衝撃と共にその顔を驚愕に染める
「なっ…ガッ!?」
フォンの放った貫手は、確実にクトゥヴァのコアらしき物体を握り彼女の身体を貫き出ている
一方クトゥヴァの貫手もまた、確かにフォンの身体を貫いてはいた
だが…
「ば、かな…AMライフルの、貫通した痕に、アタシ…の、腕、を…」
「これ、で…三体…目…」
残る力を振り絞り、コアを握り潰す
クトゥヴァはビクンと大きく躯を震わせ、次に力が抜けていく
「ちく…しょ…お…
お前、イ…カれ、てやが、る…」
「ああ…そうだな…俺は…とっくにイカれているかも…な、全てに別れを…告げた、あの時から…」
言葉が途切れ途切れになり、その瞳が光を失い
クトゥヴァ・トゥは、その機能を完全に停止した
フォンは物言わぬ人形と化したクトゥヴァを突き放すと、その場に倒れこんでしまった
彼もまた、限界だったのだ。
「はっ…ハハ…っ…やった…
だが… 俺も、転移、するだけの…余裕が…」
力なくモニターを見ると、残り時間は5秒になろうとしている
「ま、だ…死ぬ、訳に、は……」
思いとは裏腹に意識は混濁し、瞳は閉じられていく
「キーア…フラン…」
全てが光輝き、閉じた瞼裏にも明かりを感じ、熱を感じた
(レ…ミィ……)
脳裏に青い髪の女の子が振り返り、笑顔を見せた気がして、フォンは最後にその名前を思って意識を闇に沈めた。
気を失う瞬間に、身体が浮き上がるように感じたが、もはや彼には確かめる術もない
……白の輝きに混じって、その胸元のペンダントが紫に光輝いている事は、遂に気付かなかった。
―何処かの次元の、何処かの世界
施設が在った場所は、半径20㎞を消し飛ばし、巨大なクレーターを作り上げた。
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