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青年には親というのがない。
物心が付き始めた頃から、青年はA国の孤児院で育てられていた。孤児院は国からの援助を受けていたので、普通の子供達と変わらぬ教育や生活を青年は送れていた。国立の学校に通えて、勉強もスポーツも好きなようにできた。青年は自分は大変、恵まれているのだと思うようになった。
やがて、この恵まれた環境で育った青年は成人となり、あることを思うようになる。身よりのない自分をここまで育ててくれた、孤児院や祖国に恩返しをしたいと。
青年が国に尽くせる軍人になることを決意するのに、そう時間を要することではなかった。勉学も運動も国からの援助のおかげで、充実しており軍人になる為の試験も簡単に合格することができた。
青年が軍人になったにはもう一つ理由があった。国に尽くせるというのもそうであるが、A国は以前より隣国のB国と戦争を続けていたのもあった。幼い頃から、学校教育でもA国がB国から受けてきた仕打ちを教えられ続け、青年はB国こそ、滅ぼさなければならない国だと思うようになった。それこそが、世界の為であると。それに、もしA国がB国に負けるようなことがあれば、青年が生まれ育った孤児院もどうなるか分からない。軍人となって、国を孤児院を守ることこそ、自分の使命であると。
青年は軍に入ってからも、A国への恩返しとB国を滅ぼすべく、その執念で厳しい訓練にも耐え続けた。どんな罵声も苦しみも、A国がB国から受けてきた仕打ちに比べれば大したことない。やがて、青年の執念は上官を動かすことになった。それは、B国を滅ぼすという計画だ。
単身B国に侵入し、国の中枢を破壊すること。その無謀とも呼べる任務に青年は抜擢された。生きて帰れる保証もない無茶な計画に、軍に入隊して一年足らずに青年に向かわせるなどと誰もが思っただろう。しかし、入隊して一年足らずというのも選ばれた理由の一つだ。新人である青年はA国に関する機密情報を何一つ知らない。口を割るつもりはないが、捕まったとしてもB国に情報を漏らすということは絶対にないのだ。
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