あの時、俺は

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俺は麻里子先生だけを見ていて だから、彼女が誰を見ているのかを知っていた。 そして、いつもソイツを見ているもう1人の彼女のことにも ずっと前から、気付いていた。 「――残念だったね、佐久間くん」 同様に桐谷が俺の気持ちに気付いていることも 薄々、気が付いていた。 「そっちもね」 互いに視線を合わせて 肩を、竦ませる。 「ね、邪魔しちゃおうか」 「あいつらの?」 「だって、絶対これからデートだよあの2人」 「お前、意外と悪いね」 「悔しいじゃない。佐久間はこのままでいいの?」 佐久間『くん』が取れて、呼び捨てになった。 桐谷千鶴が、一気に俺の領域に踏み込んだ瞬間だった。 今年初めて同じクラスになっても、ロクに口を聞いたこともなかったこの女が 彼女だけが俺の想いを知っていて 俺の痛みを知っていて 俺を、理解していた。 多分 その逆もまた、然り。
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