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人口1万人を超す都市、雨竜市。
その雨竜市南西にある松風町で、彼は育った。
「美久(ヨシヒサ)ーっ!そろそろ起きないと遅刻するぞー!」
台所で朝食を作っていた中年男性が、2階に向かって声を上げる。
隣のリビングのテーブルの上には、程好く出来たハムエッグが、皿に乗って2人前置いてあった。
「美久ー!」
「うっせーなぁ……。朝からそんなダミ声で叫ぶなよ」
そうぼやきながら、2階から降りて来たのは、まだパジャマ代わりのスウェットを着た少年。
髪の毛は寝癖でボサボサ、まだ眠気が飛ばないのか、大あくびをしつつ食卓につく。
「なんだ、お前。まだ着替えてないのか。もう7時半だぞ?!」
「わぁーてるよ、たくっ。どうせ、学校までチャリで5分で着くんだから、ギリギリでも問題ねーって!」
「たく、そんな余裕ぶってると、その内、痛い目に合うぞ」
生意気盛りの息子の頭を小突いた父親。
だが、その目は息子を想う、父親の優しさが籠められている。
「はいはい、わぁーたから。さっさと飯にしようぜ」
椅子の上で胡座をかいて座った彼、岩波 美久(イワナミ ヨシヒサ)が、そう促し、ハムエッグに醤油をかけた。
なので父親も、仕方なさそうに溜め息を漏らすと、台所に一度戻り、味噌汁を2人分運んで来る。
そして、美久の向かいの椅子に腰を降ろし、親子はいつも通りの朝食を取り始めた。
岩波家に母は不在。
1年前から、父と子の2人暮らしを送っている。
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