第1章

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そんな彼ら親子のやり取りに、少女は自然と朗らかな笑みを溢す。 「ううん、大丈夫だよ。よっくんは、昔のままのよっくんだから良いの。夏菜は、そんな よっくんが大好きだもん」 「ぶっ、馬っ鹿、ああ朝から何言ってんだよっ!!」 恥ずかしげもなく告げた彼女に、今度は美久が真っ赤だ。 そして、照れ臭くなり、彼は慌てて自室のある2階に登って行く。 そんな彼の姿を見守るのは、3歳からの幼馴染み、観音寺 夏菜 (カンノンジ カナ)だ。 美久と同い年の16歳だが、幼い顔立ちとツインテールが、実年齢より低く感じさせる。 「あ、よっくん、来た来た~」 「全く、ようやく終わったか。ほれ、遅刻する前に、とっとと行け」 高校の制服に着替え、左肩にカバンを引っ掛けた美久が、ちょっと眉を寄せた表情で、階段を降りて来た。 「行こ、よっくん」 「へいへい 」 朗らかに微笑んだ夏菜に手を引かれ、美久はかったる気に家を出る。 その背中を、父親がいつも通りの様子で見送り、声をかけた。 「2人とも気を付けるんだぞ」 「はぁーい、行ってきまーす!」 明るく手を振って応えた夏菜とは反対に、自転車の鍵を開けた彼は何も言わず、さっさと自転車に跨がる。 どうせ今日の夜には、また口喧しく言われながら、一緒に変わらず夕食を食べるのだから、いちいち気にしてられるかと、カバンを自転車の籠に突っ込んだ。 「お待たせ~」 美久の父親と挨拶を済ませて来た彼女が、自転車の荷台部分に座ったのを合図に、彼はペダルを漕ぎ出す。
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