第1章

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岩波家を離れ、一番最初の十字路に来た美久が、ペダルを漕ぎながら、後ろの夏菜に声をかけた。 「そういや、お前の学校って、俺んとこより校門閉められんの早くなかったか?確か、8時15分ぐらい……」 左手首につけた腕時計で確認すると、もう時間は8時5分だ。 「大丈夫だよ、今日は何もないから。15分までに学校に行かないと駄目なのは、ミサがある日だけだから」 「うっへぇ~。さっすがお嬢様カトリック系の五色園女学院。俺ら男子高とは違うわ」 夏菜が通うのは、雨竜市随一のカトリック系の学校で、名門、五色園(ゴシキエン)女学院。 美久の行く北陸大(ホクリクダイ)高校とは、偏差値から教養、なにからなにまで真逆である。 「……でも、夏菜は普通の学校に行きたかったなぁ」 美久の背中に頬を寄せた夏菜が、少し寂しそうに呟く。 「仕方ねぇよ、夏菜は観音寺の娘なんだし。俺らとは、いつか住む世界が違って来る 」 雨竜市内大半の公共施設を管理運営、そして多くの企業や財政界に、巨大な影響力を持つ観音寺財閥。 その家の娘が夏菜だった。 「……なんか、寂しいね」 ポツリと呟いた彼女の声を背中で聞きながら、美久は自転車を走らせた。 そして、岩波家から自転車を走らせること10分、彼らは、夏菜の通う五色園女学院に到着する。 「相っ変わらず、でけーなぁ。東京ドーム何個分だよ」 「えへへ、夏菜は今でも迷子になるよ~」 自転車から降りた夏菜がそうおどけるが、あながち冗談ではなさそうなので恐ろしい。 幼等部から大学部までが全て揃った、完全エスカレーター式の五色園女学院は、恐らく東京ドーム処か、街一つが軽く入る広さだ。
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