1人が本棚に入れています
本棚に追加
岩波家を離れ、一番最初の十字路に来た美久が、ペダルを漕ぎながら、後ろの夏菜に声をかけた。
「そういや、お前の学校って、俺んとこより校門閉められんの早くなかったか?確か、8時15分ぐらい……」
左手首につけた腕時計で確認すると、もう時間は8時5分だ。
「大丈夫だよ、今日は何もないから。15分までに学校に行かないと駄目なのは、ミサがある日だけだから」
「うっへぇ~。さっすがお嬢様カトリック系の五色園女学院。俺ら男子高とは違うわ」
夏菜が通うのは、雨竜市随一のカトリック系の学校で、名門、五色園(ゴシキエン)女学院。
美久の行く北陸大(ホクリクダイ)高校とは、偏差値から教養、なにからなにまで真逆である。
「……でも、夏菜は普通の学校に行きたかったなぁ」
美久の背中に頬を寄せた夏菜が、少し寂しそうに呟く。
「仕方ねぇよ、夏菜は観音寺の娘なんだし。俺らとは、いつか住む世界が違って来る 」
雨竜市内大半の公共施設を管理運営、そして多くの企業や財政界に、巨大な影響力を持つ観音寺財閥。
その家の娘が夏菜だった。
「……なんか、寂しいね」
ポツリと呟いた彼女の声を背中で聞きながら、美久は自転車を走らせた。
そして、岩波家から自転車を走らせること10分、彼らは、夏菜の通う五色園女学院に到着する。
「相っ変わらず、でけーなぁ。東京ドーム何個分だよ」
「えへへ、夏菜は今でも迷子になるよ~」
自転車から降りた夏菜がそうおどけるが、あながち冗談ではなさそうなので恐ろしい。
幼等部から大学部までが全て揃った、完全エスカレーター式の五色園女学院は、恐らく東京ドーム処か、街一つが軽く入る広さだ。
最初のコメントを投稿しよう!