第3話

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「どした?」 俺の声にはっとした稲葉は、何でもないことのように言った。 「昨日の夕方、日本に帰国した・・・って」 「そうか・・・・」 誰が、とも言わず、誰が、とも聞かず、その人は厳然と俺たちの間にいる。 やっかいだな・・・・と思ってハンドルを切った。 マンションに着いて、着替えてくるという稲葉を車の中で待ちながら、考えていた。 どうしたら俺のそばにいてくれるのだろう。もっと俺のことを好きになってくれるのだろう。 手に入れたいと望み、手に入れた瞬間からもう手放したくないと望む。 欲ってやつは限りないな。そんなことを考えていたら、稲葉が見えた。 白いハイネックセーターにグレーチェックのスカート、キャメル色のジャケットを着ていた。黒いタイツに足元はハーフブーツだ。 どきどきする。これはいい方のどきどきだ。 お待たせしました。と言って助手席に乗った稲葉は、甘い香りがした。 俺は・・・・いくつだ。高校生でもないのに、こんな風にときめいている。 「お前、その服・・・」 「え?おかしいですか?」 そうだ。俺は素直に、優しくするんだった。 「いや・・・・・・・可愛い」 とたんにぱっと稲葉の頬が染まった。 「あ・・・りがとうございます」 こんな可愛い顔が見られるなら、素直になるのも悪くない。 俺はアクセルを踏んだ。 ************ 街はクリスマス一色で、ツリーやイルミネーションがあちこちに飾られている。それを見て回るだけでも充分楽しかった。 いや、一緒にいるのがこいつだから楽しいんだろうか。 途中で考えるのはやめた。 夕方、そろそろ薄暗くなってきたので、駅前広場の大きなツリーを見に行くことにした。 暗くなってくると、大きなツリーは光が映えて、よけいに幻想的な雰囲気になってくる。 遠目にもそれがわかった。 カップルや家族連れ、高校生たちも楽しそうに広場へ向かっていた。 不思議だ。クリスマスツリーを見ようなんて思ったの、何年ぶりだろう。 稲葉といると、初めての自分にけっこう会える。また、新しい発見だった。 「あ・・・・・?」 稲葉の声に見上げると、灰色の空から、ちらほらと雪が舞い降りてきた。 周りの女の子たちが立ち止まり、歓声を上げる。 俺たちが思わず顔を見合わせて笑顔になった瞬間、俺の足元に柔らかいものが、とんっと当たった。 え?と思った俺の目の前に、赤い物が浮かんだ。
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