第3話

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稲葉はふふっと笑った。 「驚くでしょ?」 「いや・・・・それは」 俺もヘッドボードに寄りかかった。本気なんだ、野上さん。 「別れ話をされるって覚悟してて・・・だからよけいに・・・・びっくりして」 「そうか・・・でも、じゃあお前は・・・望んでなかったのか・・・?」 稲葉は足を縮めて、膝を抱えた。 「私・・・このままでいたかったんです。最初から望んじゃいけないと・・・思ってたから・・・」 「それは・・・他の人を不幸にして、自分だけ幸せにはなれない・・・みたいな感じ?」 「うーん・・・それは違うかなあ・・・むしろ、考えることが怖くて。それで・・・終わりにして・・・って言っちゃいました 」 「納得したの?野上さん」 稲葉の頭が、少し左右に揺れた。 「逃げたんです、私。彼からも。決断からも。何もかも怖かった。たぶん・・・変わることすべてが」 「・・・・・・・・・」 「自分の意志とは関係なく、いつか終わるだろう・・・って考えていたのかも」 稲葉はひとつ、ため息をついた。 「ずるいんです・・・・私」 また泣き出すのかと思ったけど、稲葉は泣かなかった。 「私・・・何でこんなこと・・・先輩に・・・話してるんでしょうね・・・?」 「そうだな。でも俺で良かったら何でも聞く」 けっこうかっこ良く言ったつもりだったけど、稲葉は小さく笑った。 「先輩・・・聞いていいですか?」 「うん・・・・何だ?」 稲葉はまた、ふふっと笑った。 「先輩は・・・私のこと、好きだったんですか?」 「え?!・・・俺、なんか言ったか?」 あ・・・・・認めてしまった。 「はい・・・・まるで呪文のように繰り返して」 「なんて・・・・?」 「・・・ずっと・・・お前が・・・好きだった」 俺は天を仰いだ。 めちゃくちゃかっこ悪い。 稲葉はくすくす笑いながら、まだ攻めてくる。 「でも、それがホントなら」 「・・・・・?」 「全然・・・伝わってなかったです」 「・・・・え?」 「だって・・・ずっと嫌われてる・・・って思ってました」 「解りにくかった・・・・俺?」 「全く解りませんでした」 稲葉は、さらに笑った。 「好きなら・・・優しくしてくれたら・・・良かったのに」 それは、俺も思う。そうすればもう少し早く、お前にたどり着けたかもしれないのに。 「ごめん・・・・」 「やだ・・・謝らないでください」 「うん」 部屋は適度に暖かい。隣に好きな人がいるって、こんなに穏やかなことなんだ。 なにも、つらい恋なんてしなくていいじゃないか。
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