第3話

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車が止まった。 「ありがとうございました」 助手席でもう1度お礼を言い顔を上げると、まともに片岡先輩と目が合った。 「バカだな、お前」 いつもの意地悪な顔じゃなく、優しい顔だった。 「え・・・・?」 片岡先輩は大きくため息をついた。 「ひどい顔してるぞ」 とたんに、泣いたことを思い出した。瞼も腫れている気がする。 あ、と思ったら、 「降りろ」 と言われた。 「あ・・・・はい」 あわてて車から降りた。 片岡先輩はそれ以上何も言わなかった。 車が角を曲がるのを確認して、マンションに入る。 やっぱり片岡先輩は怖かった。でも・・・・たぶん心配して送ってくれたのだろう。 そんなに、いやな人じゃないのかも・・・・・。 そんなことを考えながら部屋に入り、ソファに倒れ込んだ。 疲れた・・・・・。 ふと見ると、投げ出したバッグから飛び出した携帯が、青く光っていた。 亮太からのメールはひと言だけ。 『ごめん』 また、謝ってる。 ふふっと笑った。 亮太は謝って、私は泣いて、その繰り返しだ。 亮太が謝る。私が泣く。 亮太が謝る。私が泣く。 携帯の画面を見つめたまま、涙が止まらなかった。 あのひとが好きで、好きでたまらない。 でも、もう好きでいてはいけないのだと思っていた。 これは・・・・罰だから。 自分の部屋なのに、声を殺して私は泣いていた。 こんな恋をした、私がいけないのだけれど。 でも・・・・・・。 *********** 週があけて、月曜日の朝。 早速、片岡先輩にお礼を言いにいった。 「気にしなくていい」 ぶっきらぼうに言われたけど、怒られている感じではなかった。 少しだけ安心した。 亮太は普通に出勤していたけど、私は何も言わなかった。 皆が口々に聞いていたので、息子さんの乗ったバスが接触事故に巻き込まれたことや、擦り傷だけですんだことはわかっていた。 でも、これはきっと罰だから。誰かが見ている気がした。だから怖くて、彼には近づけなかった。 1週間が過ぎて、金曜日。 亮太からメールが入る。 「今日、行っていいかな?」 何となく覚悟をしていた。 亮太は部屋に入るとすぐに、 「色々・・・・ごめん」 と言った。 また、謝ってる・・・・。 黙って首を横に振ると、亮太は久しぶりにふわっと笑った。 その笑顔は・・・・反則。
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