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これで良かったのだと言い聞かせながら、膝を抱いた。
明日からは泣かないと、心に決めて。
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<長い、航目線>
勢いで野上さんに宣戦布告したのは良いけど、それから先の手はなかなか打てなかった。
何せ本人には気持ちを伝えてない。よく考えたら、女に告白したことはなかった。
この前きっぱり断られてるから誘うのも難しいしなあ、などと考え、稲葉を横目で見る日が続いた。
たまに飲み会で声をかける時も、からかったり、文句を言ったりで、いつも稲葉を怒らせていた。
俺は・・・・小学生か。
ああ、方向転換は難しい。
秋も半ばすぎのある日、事件が起きた。
野上さんの息子が交通事故に巻き込まれたとかで、皆が騒ぎだした。
野上さんはちょうど外出中で病院へ直行したらしい。
稲葉は・・・・?と思って見ると、ふらふらと出ていくのが見えた。
給湯室に入り、じっと立っている稲葉にたまらず声をかけたら、振り返った顔色が白いというより青くて、息を飲んだ。
「大丈夫です」
出ていこうとする腕をつかんだ瞬間、声もなくくずおれた稲葉の身体を抱き止めた。
「稲葉、しっかりしろ!」
何度呼び掛けても反応しない稲葉を医務室まで運んで、あとを根元さんに頼み仕事に戻る。
皆に色々聞かれたが、貧血だと誤魔化した。
絶対に、野上さんのことで倒れてる。なにかを思い詰めてああなったんだ、と思うと腹が立ってしょうがなかった。
何故、稲葉があそこまで追い詰められて、苦しまなくちゃいけないんだ。
野上さんに腹が立ち、それから稲葉にも腹が立った。
そうだ、と思い立ち山崎主任からこっそり稲葉の住所を聞き出す。主任はいわゆる片岡派だ。
しばらくすると、根元さんの姿が見えた。
「根元さん・・・稲葉、どうですか?」
「うん、さっき目を覚まして。大丈夫みたいだから今日はこのまま帰らせる」
「俺、今日車なんで送ってきます」
「片岡くん?!」
根元さんの返事は聞かず飛び出した。
駐車場から急いで車を回す。
しばらく待つと稲葉の姿が見えた。
車を目の前に止めても、?という表情の稲葉にまた、いらいらさせられる。
降りて、腕をつかみ、
「乗れ」
と言うと、やっと俺に気づいたらしい。
本当に印象薄いみたいで、自信喪失させるヤツだな、お前って。
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