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俺の勢いに飲まれたみたいで、あんまりしゃべらないでいてくれて助かった。
色々言い出すと、説教じみたことを言いそうだった。
ちらっと見ると、まだ顔色は良くない。
渋滞の間、ずっと考えていた。倒れるくらい自分を追い込んで、それでも野上さんが好きなのか・・・・?
こいつ、バカじゃないか。
マンションの前に車を止めると、稲葉は小さい声で、
「ありがとうございました」
と言った。
「バカだな、お前」
こんなに傷ついて可哀想に、と素直に思っていた。
「ひどい顔してるぞ」
と言い、稲葉を降ろした。
このまま乗せていたらきっと、その身体を抱き締めて、泣かせてやりたくなる。
何故、こんなにつらい恋をする。
稲葉には、笑っていてほしい。
あの、花が開くような、ひそやかな笑顔が見たいと、心から思っていた。
***********
あれから2週間と少し過ぎて、街はすっかり冬になった。
野上さんの息子は大したことなかったらしいが、稲葉とは何かあったらしい。
稲葉は、会社で野上さんを見なくなった。それは痛々しいほどに頑なだった。
無理してるんだろうな、と思ったけど、何もできなかった。
逆に野上さんは、稲葉に何か言いたそうだった。
俺は2人の観察日記が書けるな。
12月に入ると、以前もめていたシンガポールの問題が再発し、野上さんは長期出張に出ることになったらしい。
主のいない席を見つめてため息をつく稲葉が、なんか切なかった。
今年のクリスマスイブは金曜日にあたるらしく、ずいぶん前からパーティをやる話は聞いていた。
大谷に誘われて会場のレストランに行くと、けっこう参加者も多くて盛り上がっていた。
しばらく女の子たちに囲まれて、ようやく解放されたら、楽しそうな稲葉を見つけた。
表情は明るい。でも、
あいつ、痩せたな・・・・。
しばらく見ていると、どうもピッチが早い。すでに稲葉の白い頬には赤みがさしている。
あ・・・・また飲んだ。
坂口の背中をばんばん叩いて、またグラスを煽った。
あれ、マティーニじゃないか?
おいおい、一気に飲むな。
バカだ・・・・あいつ。
痛々しくて、見ていられなくなった。
気分は最悪だ。また、いらいらしてくる。
俺はため息をついて、稲葉の横へ行き、腕を取った。
へ?みたいな顔の稲葉に、
「帰るぞ」
と言った。
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