第1話 変わり者には珈琲を

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「ご注文は?」 学校帰りなのか、俺と同じ学校の制服を着た姫は口を開いた。 「珈琲。」 あ、珈琲か。 どうせなら、紅茶とかのメルヘンチックな物を頼むと思ったが、彼女は珈琲派なんだ。 しばらくして 「はい、珈琲になります。」 湯気の立ったマグカップをトレーに乗せて彼女の席に置く。 彼女は無愛想にども、と会釈して珈琲をブラックで飲もうとした。 次の瞬間 「熱い!!!!!!!!!!!」 ガッシャーン! ど派手に珈琲をぶちまけ、マグカップなんて粉々だ。 「もっ申し訳ありません!」 慌てて俺が駆け寄ると、姫にキッと睨みつけられた。 そして指を指すと、 「うちに来て、べんしょーしてもらう。」 確かに、制服のブラウスは、あの黒い汁でベットベトになっている。 「おい、店長呼べ。」 隣で同僚の女の子がヒエーと言わんばかりに、店長のもとへ急いだ。 「申し訳ございません!ウチの社員が!いくら弁償ですか!?」 店長は、真っ青な顔で姫に謝る。 しかし姫はその謝罪に何も言わずに俺を再び指を指した。 「店長が弁償する必要は無い。ただお前のバイト力が欲しいだけだ。」 一同呆然。 「お前には、根性ありそうだからね。」 それから一週間後、俺は姫の召使のバイトに雇われた。 「姫?何であの時俺を召使いにしたんですか?」 姫は突然立ち上がり、部屋を出た。 まずい。何か気に障る事を言ったかと、ハラハラしていると ガチャン ドアが開き、トレーの上に湯気の立ったマグカップが乗っている。 「珈琲だ。飲め。」 姫が珍しく飲み物を淹れて持って来た。 姫…と感極まり、ウルウルと感動が胸に込み上げてきた。 そして、珈琲を一口付け… 「グハッ!!何ですかこれ!?」 「何って…五感が楽しめる珈琲だが?」 確かに、辛いし苦いし甘いし酸っぱいししょっぱい… 肝心な旨味が微塵も感じられないが!! 「変わり者には、珈琲がいいと思ったが、正解だったな。」 姫は満足そうに冷たい珈琲を啜るとワザとらしく微笑んだ。 「いや、あんなもの作る奴こそ変人だろオオオオ!」 今日も俺は猫舌姫に遊ばれる。 まぁそれが嫌って訳じゃないからなっ! ただ、飲み物で変な物入れておくのやめてえええええええ!!!!
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