58人が本棚に入れています
本棚に追加
「瞬君、訊いてもいい?」
前置きできる冷静さは残っていたものの、それでも素面だったら質問できなかったと思う。
「なに?」
瞬君は飲んでいた水割のグラスをコースターに戻し、私に顔を向けた。
私は隣に座っている瞬君の方を見ず、カウンターに視線を落としたまま訊ねる。
「陸上を止めるとき、辛くなかった?」
「……辛かったよ。これから何のために生きるんだろう、って思ったときもあったし」
会話の内容は重いのに、瞬君の口調は穏やかで声は澄んでいる。
最初のコメントを投稿しよう!