清き祈りは天に届かない

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清き祈りは天に届かない

大陸南部、アスカーロ王国の王城。 その一室で幾人のものたちが、ある、一つの決断を見届けた。 部屋の内部は薄暗く隣席者の顔色をうかがうのも困難だが、この場にいる一同は皆、自身や相手がどのような表情を浮かべているかなど、すでにわかりきっていた。 「…………姫様。ご意志は、変わらぬのですか?」 幾人の姿を型どる影のひとつが、悲壮感溢れる声色で問いかける。しわがれた老人の声は震えており、聞き取りにくいものだったが、しっかりと届くべき人には届いている。 「…………えぇ、わたくしの意志は変わりません」 美しい小鳥の囀ずりを思わせる、清く澄んだ声が返るが、今この場にいる者はその声に癒されることはない。 むしろ苦痛であり、叶うならばこの少女には、そんな言葉を呟くのを止めさせたかった。 「この世界、幻想世界ミルトリア全体の平和を守るためです。そのためなら、わたくしは…………!」 重々しい空気を纏って発せられた問に姫と呼ばれた小柄な影は、強い意思をもって答えた。 その言葉に込められた意思を感じ取り、影たちは奥歯を噛み締め、血が滲むほどに拳を握りしめて、自らの不甲斐なさを呪う。 何故、この方なのかと。 何故、自分ではなかったのかと。 何故、このような決断、運命を! まだ、年端も行かぬ娘に背負わせねばならぬのかと!! 穏やかな春風に彩られた花々の美しさ。 波打ち際で聞こえる海のせせらぎ。 緑溢れる森林を逞しく生きる獣たち。 繁華な雑多を行き交う人々の無邪気な笑顔。 愛し、愛され育まれる誰かを思うという気持ち。 それら自然の世界の美しさを知らず、生まれてから十数年の人生をこの小さな城の中で過ごしてきた憐れな娘に。 なんと、酷い重責を背負わせるのか。 くぐもったお嗚咽が、室内のいたるところで聞こえる。 「ガラハッド、レイルファン。泣かないで下さい。何を悲しむことがあるのです?愛する民のためにその身を捧げるは王族の責務。なればこそ、わたくしはかの儀式を行うのです」 少女はお嗚咽を漏らす臣下に歩みより、愛らしく微笑んで、頬を流れる涙を指先でそっと拭う。 「姫様…………!なんと、なんとお痛わしい…………!!」 「何もできぬ我らを、不甲斐ない我らをお許し下さい…………!」 「許すも何も、誰もあなた達を罰してなどいませんよ」 少女は諭すように臣下に告げ、強い意思をもって告げる。 「召喚の儀を執り行います」
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