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それから十数分後、彼の姿は松上東(マツガミヒガシ)高校、校舎3階の2年4組にあった。
既に教室には先生が来て朝のSHRを始めているにも関わらず、その耳からイヤホンを外そうとしない。
が、誰もそれを注意しないままSHRは終了し、1限目の数学Ⅱが始まる時間となった。
無機質な鐘の音が響き渡り、クラス委員が号令をかける。
「起立!」
……立たない。
「礼!」
……微動だにしない。
「着席!」
……机の中に手を入れ、教材を取り出すのかと思われたがその手に掴まれていたのは英語で書かれた本であった。
そのまま授業の進行などお構い無く、「我関せず」とばかりに本を読み耽る。
暫くは放っていたが、流石に我慢の限界が訪れたのか。中年太りをした数学教師が腹を揺らしながら彼に近付く。
「おい、三宮憂(サンノミヤ ユウ)!今は授業中だ、本を閉じろ。イヤホンをしまえ!」
大きな声で怒鳴り散らす数学教師。周りの生徒は不安げな表情でその少年――三宮憂を見つめるが、彼は先程までと変わった様子はなく本に目を落としたままである。
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