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体育館の入り口。しんと静まり、変な緊張感が漂っていた。
あれ。やだな。俺まで緊張してる。少しだけね、少し。
小さく息を整え、体育館玄関のドアに手を掛けた瞬間、ハイヒールの足音が、後ろで止まった。
声をかけられないうちに振り返ると、背の小さいふくよかな、厚化粧のババア───理事長が立っていた。
「なにを、しているの!」
香水のにおいがきつい。
怒りと声を圧し殺し、その指先は真っ直ぐに俺に向いていた。
「迷子の金髪がいたから、連れてきた。」
その言葉を聞いたとたん、怒りでしわくちゃになっていた顔のしわが幾らかましになった。
そして、頭上には(おそらく)大きなクエスチョンマーク。
「あの、あのっ、すみませんでした!」
金髪はすばしっこい。ババアに怯えて俺の背後に隠れていたかと思えば、いつの間にかババアの目の前で深々と頭を下げている。
その金髪を、ババアは目をまんまるく見開き、怒鳴るのかと思ったら、優しく抱き締めた。
「あら、あらあら!まあ!イヴ!そうだったのね、それならしょうがないわね!」
ババアはその金髪───イヴの肩を優しく抱き寄せ、意図も簡単に体育館玄関のドアを開いた。
「貴方は理事長室で待ってなさい。」
静かな口調で、俺に告げる。
「さ、イヴ、行きましょう。大丈夫よ、貴方は入学式に間に合ったわ。」
二人は俺に背を向けあ足早にドアの向こうへ行ってしまった。
ドアがしまる一瞬に、イヴが振り返って何か言っていたけど、聞き取れなかった。
くそ。こうなっても俺は、入学資格は無くならない。
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