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「この本は……イタリィでしょうか?」
「……っ、えぇ。そうです。よく解りましたね」
ふふ、と彼女は笑いました。さくらの花のように美しく、可憐に。花の妖精のようでした。儚く、散ってしまいそうな。なよやかな肢体は、女性にしては少しだけ、長身でした。
さら、と彼女の黒々とした髪と、髪に結ばれた赤いリボンが風に揺れました。朱唇を、彼女は開きました。
「……これを。読めるのですか」
「えぇ、少し。しかし、イタリィは難しい。辞書を時折、使います」
「……敗戦なすったというのに。イタリィの本なぞ読んで、よろしいのですか」
ひた、と彼女はわたしを見つめました。紛れもない笑顔でしたが、目が少しも笑っていないのでした。さらさら、彼女の後ろでさくらが散りました。
「敗けたのに。敵国の小説なんてお読みになって」
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