0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「……あたくしの兄は亡くなりました」
「玉砕なすったのですか」
「いいえ、亡くなったのです」
彼女はそう、頑強に言いました。
「兄は、亡くなったのです。殺されたのです。人に―――日本に、殺されたのです」
そして兄は、と。
「この地で眠っているのです」
くるり、と彼女は踵を返しました。赤いリボンと、黒い髪がひらひらと揺れました。そして彼女は、あの言葉を呟きました。
「ゆるゆるゆるり、負けましたわね。貴方方も、あたくし達も」
「……?」
「あたくしの母が教えてくれたのです。辛いことを言う前に唱えたら、気が紛れるわ。なんて」
ちらり、と彼女は肩越しに振り返りました。
「その母も。殺されたのですけれど。ゆるゆるゆるり」
「銃後の人が。何故」
「あらあら。日本に、殺されたんですの」
ころころ、彼女は笑いました。鈴が鳴るような笑声でした。
最初のコメントを投稿しよう!