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思わず、こちらがひやりとするような微笑みを、彼女は浮かべました。光の悪戯か、不意に瞳の色が、青色に見えました。どきり、と震えたのを覚えています。
「ゆるゆるゆるり、負けたんですの。貴方方も、あたくし達も。どこまでも、つまらない終わりでしたわ」
そう言って、彼女が歩き去るのを、何故か止めることは出来ませんでした。つまらないなどと言うのは不謹慎だ、とか、親族を亡くした人は沢山いるのだからとやかく言うものではない、とか。
そんな何処かの大人から借りた言葉では言い表せないなにか、そういうものが、身体の中を渦巻きました。
ぽつねんと立っているさくらの木から、ひらひら、さぁさぁと花びらが散りました。
*
家に帰ると、母がくるくると台所で働いておりました。それを暫しの間見つめ、なにも言わずにわたしは、居間へと向かいました。
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