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「あら、お帰りなさい。ちぃ兄さま」
うん、と妹に頷きました。四歳下の明るく活発な、わたしの妹でした。二つ上の、兄もいますが、その時は確か、行方不明でした。その兄は大兄さま、わたしをちぃ兄さま、と妹は呼んでおりました。
そんな妹は、怠惰であった兄とは違い、女学校に毎日通ったり、母の手伝いをしたりしておりました。
「あ、ねぇねぇちぃ兄さま、知ってらっしゃる?今日ね、イタリィの子が引っ越すんですって」
「イタリィ!?」
「やだ、大きな声あげて。どうなすったの?」
はっ、と我にかえりました。ポケットに入っているイタリィの文字が羅列されている小説が、とても重たく感じました。大声をあげてしまった自分を誤魔化すように咳払いをし、妹に静かに問いました。
「その、イタリィの子はなんでここにいたんだい」
「噂、なんだけどねぇ。なんでも、お母さまは日本人らしいのだけど。お父さまはイタリィの人なんですって」
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