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かんなは瞬きもせずに、じっと麻琴を見ていた。
「自分が拘(こだわ)っていたもの全てが下らなく感じてさ。
かんなと付き合っている時の勘違いした自分を思い出すだけで恥ずかしい。本気で謝りたかった。
傷つけてゴメン。
…ごめんな、かんな」
最後のセリフの意味を理解したかんなは、泣きそうになるのをぐっと堪える。
「もういいよ。謝りたかったのは私も同じだよ。
じゃあ、お互い時効って事にしよ。
さぁて、そろそろ帰らなきゃ」
伸びをして門の方へ向かう。
「麻琴の好きになった人って雫ちゃん?」
麻琴は正直に言うべきか迷って「そう。よくわかったな」
照れて素っ気ない言い方になってしまった。
「わかるよー、だってさっきのファミレスで最初必死で言い訳してたじゃない。
初めてみたな、麻琴があんなに必死なところ」
私と付き合ってた時にはあんな姿見たことなかった。
小さな小さな呟きは静かな夜を進んで、麻琴の耳まで届いた。
「…必死だったよ」
弾かれたように麻琴の顔を見たかんな。
麻琴は困ったような穏やかな表情でかんなを見た。
「必死だったよ。
かんなが入院して、何も教えてもらえなくて、会えなくて、もっと必死だったよ。ただ、俺の必死でみっともない姿をかんなが見損ねただけだよ。
残念だったな」
最後におどけるようにニッと笑って頭をぐしゃぐしゃ撫でた。
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