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リビングでは残された親子が無言だった。
「月下めー!あーあ、雫ちゃん久しぶりだったのにつまんないの。
あたしもお菓子食ーべよ。
…お茶煎れるけど、彪もいる?」
ボンヤリしていた彪がハッとした。
「俺?いや、お茶は…あ、やっぱもらうわ。
――紅茶にしてよ」
「もちろんよ。焼き菓子には紅茶よね♪」
再び静かになったリビングにお茶の支度をする音だけが響く。
ふんわりと紅茶の香りが漂った頃、母親が口を開いた。
「ねぇ、彪は上に行かないの?」
一拍置いて吹き出す彪。
「行くわけねーだろ、小学生じゃないんだから。彼女来てるのに邪魔するわけねーじゃん」
「ふぅん、雫ちゃんはやっぱり月下の彼女なのね」
両手でティーカップを包むように持った母親が呟いた。
「なんだよ、不満なの?」
からかうように問うてみれば、彼女は珍しく母親らしい慈愛に満ちた顔をした。
「あんたは不満じゃないの?」
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