第12章

7/18
前へ
/681ページ
次へ
リビングでは残された親子が無言だった。 「月下めー!あーあ、雫ちゃん久しぶりだったのにつまんないの。 あたしもお菓子食ーべよ。 …お茶煎れるけど、彪もいる?」 ボンヤリしていた彪がハッとした。 「俺?いや、お茶は…あ、やっぱもらうわ。 ――紅茶にしてよ」 「もちろんよ。焼き菓子には紅茶よね♪」 再び静かになったリビングにお茶の支度をする音だけが響く。 ふんわりと紅茶の香りが漂った頃、母親が口を開いた。 「ねぇ、彪は上に行かないの?」 一拍置いて吹き出す彪。 「行くわけねーだろ、小学生じゃないんだから。彼女来てるのに邪魔するわけねーじゃん」 「ふぅん、雫ちゃんはやっぱり月下の彼女なのね」 両手でティーカップを包むように持った母親が呟いた。 「なんだよ、不満なの?」 からかうように問うてみれば、彼女は珍しく母親らしい慈愛に満ちた顔をした。 「あんたは不満じゃないの?」
/681ページ

最初のコメントを投稿しよう!

117人が本棚に入れています
本棚に追加